木製和室トレーラー「お茶旅® 」の 制作記録
私たちは、日本の伝統工法で作る、お茶室キャンピングトレーラー「お茶旅®」を制作しました。
四季折々の美しい風景の中でお茶を楽しんだり、各地の伝統文化を訪ね歩く 気ままな旅を通じて、皆様と交流や学びができたらと思っています。
(2023年9月1日 杣耕社さんによる木工工事が完了しました。これからタイニーハウスジャパンさんが自社の工房に運ぶところです。)
私が、木製キャンピングトレーラーに興味を持ったのは、タイニーハウスジャパンの田上さんの事を知ったのがきっかけです。工房のある大分県の地元で採れる無垢の杉材や様々な天然の素材を使い、工芸品の様に美しい木製トレーラを手作りしているビルダーさんです。伝統の匠の技を駆使し制作される木製トレーラーは、まるで陸を走る木製ヨットの様でもあり、人が住める巨大な手作り家具の様でもある、手作りのぬくもりに溢れた、自然と共に暮らす移動する小さな家です。また、釘などの金物を使わないで組み立てられた伝統工法による構造は、公道を走り回ってもびくともしない、強靭なしなやかさと軽さを有しています。
もともと日本の伝統的な技術や風土に根差す暮らしを、今の時代に生かすことはできないものかと 考えていた私は、一目でこのトレーラーに惹かれてしまいました。そして、タイニーハウスジャパンさんのトレーラーを見ていた私は、神社の様なトレーラーを作って、それで日本中を旅してみたいと思うようになりました。早速、そのイメージを SketchUp というCADソフトを使い、3Dデータで作ってみることにしました。田上さんのトレーラーを動画で見て、見よう見まねで作ったのが 以下の画像になります。
(この建物をトレーラのシャーシの上に組み付ける計画です)
ほとんど柱と建具だけで構成された、伝統的な日本家屋です。二畳ほどの土間台所を兼ねた玄関と、三畳ほどの小上がりの畳の和室、その奥にお手洗いと浴室を備えています。和室の側面は掃き出し窓になっています。和室の側面の格子塀は広げると軒と縁側になります。私の夢を詰め込んでいったら、このような珍妙なイメージが出来上がってしまいました。
はたして、制作は可能なのか、そもそもこんなものが公道を走ることができるのか、タイニーハウスジャパンの田上さんを実際に訪ね、直接伺ってみることにしました。田上さんご夫妻にお会いして、私の思いをお話しさせていただいたところ、田上さんは、面白いが、残念ながら和風のトレーラーをやっていない。しかし、このようなものを手掛けたいという職人は多いはず。その中で、岡山県に杣耕社の 山本さんという若くて腕の立つ棟梁がいる。もし 彼が引き受けてくれるのなら、田上さんもこの仕事を受けていただける。とのことでした。
田上さんにアポを取っていただいた私は、さっそく岡山県まで飛んでいき、山本さんにお会いさせていただきました。 そして、私の計画をお話しさせていただいたところ、山本さんも興味を示して下さり、ほぼ二つ返事で引き受けていただけることになりました。
こうして二人の凄腕職人のお力を得られたことで、私の夢が実現に向けて動き始めました。
まず、私のデザインをもとに、田上さんが設計をし直してくださいました。内装は純和風のままで、外観はタイニーハウスジャパンさんらしい洗練された形に生まれ変わりました。また、一本の杉から僅かしか採れない赤柾という希少な杉材など、大分県産の最高の木材をご用意くださいました。
今回、田上さんの設計、監修のもと、杣耕社さんに、基本構造、外壁、内装、建具、家具などの制作を手掛けていただくことになりました。
当初トレーラーの制作期間は、杣耕社さんで2か月、タイニーハウスジャパンさんで1か月、合わせて3か月ほどで完成するだろうと予想されていました。
ところが実際には、契約してから、木材の乾燥に1年半ほど、さらに、図面が出来上がって、木材の墨付けと刻みに2か月ほど、構造の組み上げと内装、建具や家具が入るまでに、さらに半年以上かかりました。
構造がシンプルな和風建築でありながら十分な強度を出すために、非常に高度で手間のかかる木組みで作っていただいたために、大変な手間暇がかかってしまいました。
トレーラーは、震度6ぐらいの揺れを絶えず受けながら走行するそうです。しかも今回は、日本伝統の木造建築の工法で、公道を走りまわる車両を作る というかなり特殊な仕事に対し「気の抜けない作業の連続ですが、楽しみながらやっています」「大工冥利に尽きる」と、一級建築士でもある山本棟梁の計らいで、安全性を考慮し、公道を走りまわってもびくともしないよう、大変頑丈に組み建てていただきました。
杣耕社の皆様本当にありがとうございます。
見たこともない様な複雑な形に刻まれた小さな部材が、ピタッと寸分の狂いもなく組み合わさり、トレーラーのシャーシの上に組み付けられて行きます。
部材の一つ一つは小さくても、かかる手間は家一軒立てるのとさほど変わらない。杣耕社さんでなければここまでの仕事はやっていただけないだろう。と語る田上さん。タイニーハウスジャパンさんのトレーラに、杣耕社さんの技が組み込まれ融合していきます。
2023年5月下旬の様子。外壁で覆ってしまうのがもったいないぐらい、素晴らしい仕上がりです。
外壁と窓枠が出来上がり立派になってきました。外壁塗装をどうするか、皆さんと話し合って、今回は、無塗装の白木のままにすることになりました。最初は汚れがかなり目立つとのことですが、経年変化を楽しみながら、末永く育てたいと思います。
長い年月を経ても、色あせない木造建築はたくさんあります。このトレーラーも大切にすれば、きっと 長持ちしてくれるでしょう。大切に使い続け、親から子へ、子から孫へと代々受けついでいけたら素晴らしいと思います。
山本棟梁のお勧めで、京都の横山畳さんの畳を入れさていただきました。畳が入ったら一気に趣が増しました。私は茶道の心得はありませんが、これでお茶会などしたらきっと素敵でしょうね。
横山畳さん、とても素敵な畳を作っていただき、ありがとうございます。
四畳半ですが、特注サイズの小さい畳ですので、実際には三畳程の広さの和室となります。
因みに、畳の下は大容量の 床下収納になっています。
同じく山本棟梁の発案で、内壁は障子壁となりました。なんと、すぐに破れてしまう紙の壁です。おかげでとても軽くなりました。破れたら様々な和紙を貼るなどして楽しもうと思います。
自然を肌で感じられる開放的で明るい和室です。
格子塀を取り付けていただいているところ。
車両の後方。開口部に観音開きのドアが付く予定です。
中には、台所とお店のカウンターが設置されています。その奥小上がりの引き戸の向こうに和室が続いています。
和室を側面から見たところ、自然を眺めながら、ゆったりとくつろげそうです。
和室の両側に、取り外して使える商品棚も付きました。棚に作品を並べて、ギャラリーなどにも使っていただけたらと思っています。
左側面のドアがお店の入り口となります。
真鍮製のお店の看板を作りました。電車の銘板風です。
お店の名前は「お茶旅」です。
皆さまにご愛顧を賜れますよう努力したいと思います。
(杣耕社の皆さま、本当にありがとうございました。左は田上さん)
杣耕社さんには、同年1月の着工開始から、なんと9か月もの月日を費やし制作していただきました。
(左端が私と妻、その隣がタイニーハウスジャパンの田上さんご夫妻、右が杣耕社の皆さん。)
杣耕社の皆様、今回は、困難なお仕事をお願いしてしまったにもかかわらず、非常に丁寧で美しく、完璧な仕事をやり遂げてくださり、感謝のしょうもありません。誠にありがとうございました。
職人の皆様からも「楽しく仕事をさせてもらいました」「良い経験をさせてもらいました」など、ありがたすぎるお言葉を頂き、涙が出るほどうれしいやら、恐縮するやら。本当に感謝しかございません!誠にありがとうございました!
そして、大変お疲れさまでした!!
この「お茶旅」を皆様から託された宝物だと思い、末永く大切に使わせていただきます。
これから、大分県のタイニーハウスジャパンさんの工房に運び、防水工事や給排水設備、建具の金具の取り付け、車検登録などの手続きを行っていただきました。
2024年1月27日トレーラーがついに完成し、静岡の自宅に納車されました。タイニーハウスジャパンさんご夫妻が遥々大分県から静岡まで届けてくださいました。
トレーラーは普段木村園の自宅兼事務所に置いてあります。
もしご興味ある方いらっしゃいましたら、ぜひ見にいらしてください!
2024年2月12日に納車後初めての運転に出かけました。
向かったのは車で15分ぐらいのところにある福田漁港。
サーファーの方たちが集まる砂浜にお邪魔しました。
納車されてからというもの雨ばかりでどこにも行けなかったのですが、この日はお天気が良くて、とてもきれいな海を眺めることが出来ました。
和室から眺める海、最高です。
この茶室にお客様をお迎えして、お茶を楽しんで頂く日が楽しみです。
これでお店を開けるようになるにはもうすこし準備が必要です。
私たちは静岡のお茶屋ですので、これでお茶屋をやろうと思っておりますが、そのほかに、どんな使い方ができるか、まだ手探りの状態です。
お茶会に使ってみたいとか、ギャラリーとして貸してほしいとか、ここで将棋の対局をやってみたいとか。はたまた私もこんなトレーラーが欲しいとか、どんなことでもご相談いただけたら嬉しく思います。
このままの本各地の伝統文化を廃れさせてしまうのはあまりに惜しいと感じています。皆さんと一緒に日本の伝統文化を盛り上げていけたら素敵ですね。
以下からも様々な情報を発信していきたいと思います!